Contents

よい仕事をするために必要な資質

「魂を込める」という表現がある。 簡潔な言葉ではあるが、ベストを尽くして仕事をする様がよく表れている。

/images/craftsmanship.jpg

よい仕事をするためには、職人魂──craftsmanship──が必要だ。 製造業などの狭義のものづくりを連想させる言葉ではあるが、 知的労働者にとっても欠くことのできない資質だ。

よく似た言葉に「職人技」があるが、これは職人魂とは違う。

職人技

職人技としてわかりやすい例は、町工場を支えるものづくりの達人の技だ。 金属部品の切削やプレス、そして研磨など…技術分野は様々だが、彼らはみな五感を総動員し、寸分違わぬ精度で製品を生み出す。 彼らの仕事は、機械では再現不能だ。 小さい町工場が今なおものづくりを牽引できるのは、彼らの技術がライバル企業にとって暗黙知であるためだ。 職人技は、暗黙知につながる概念なのだ。

一方、組織内における暗黙知はリスクになる。 同僚が代わりを務められない仕事があるなら、それは暗黙知だ。 本人にとっては簡単でも、同僚から見ると恐ろしく複雑かもしれない。 良くも悪くも、我々は知らず識らずのうちに、業務に固有の知識を身につけてしまうからだ。 仕事が属人化──つまり内部にとっても暗黙知となってしまうと、障害発生時に事業全体に悪影響を及ぼすようになる。 単一障害点になるわけだ。

形式知化の努力を怠ると、知識はすぐに暗黙知になってしまう。 事業に引き継ぎ文化があるなら、それは暗黙知を抱えている何よりの証拠だ。 同僚さえ真似できない「職人技」は、組織にとって強みになるどころか、むしろ弱点となる。 ほんとうの職人技は鍛錬の積み重ねによって実るが、怠慢によって生み出されてしまう「職人技」もあるのだ。

職人魂

仕事をする人間にとって必要なのは、職人魂だ。 職人魂を持った働き手は、よりよい品質を探求し続ける。 見えないところにも手を抜かない。 彼の仕事の原動力は報酬ではなく、誇りだ。

暗黙知は強みにも弱みにもなる二面性を持っているが、職人魂があれば恐るるに足らない。 なぜなら、職人魂を持った働き手: 真の職人にとって、改善の対象は製品の品質だけでなく、プロセス全体だからだ。 事業の全てを改善するには、達人プログラマのやり方に学ぶのが一番だ。 過去に競争力を生み出した魅力品質は、達人プログラマにとってはもはや当たり前品質。 彼は、少しでも多くのリソースを魅力品質の向上に投資したいと考えているため、知識をコードやテストによって常に形式知化しながら仕事を進める。 ビルドボタン一つで、誰でも達人プログラマの仕事を再現できるようになるのだ。 彼は、形式知化によって仕事を自分の手から離しても、自身の存在価値がなくなるとは考えない──意識がよりよい仕事に向いているからだ。 このような無我の境地は、良い仕事: 顧客価値の探求になくてはならない姿勢だ。

よい仕事をするために

いきあたりばったりな仕事をしている組織は、次第に身動きがとれなくなる。 「職人技」ばかりが肥大していくからだ。 継続的によい仕事をしようと思うなら、組織は職人魂を持った働き手を育てる必要がある。

職人魂は自律的に育っていくが、きっかけだけは与える必要がある。 まずは手作業ではなく、プログラムを使うことで、努力を蓄積できる仕事のしくみを整えるべきだ。 誰だって、無駄になることがわかっている仕事に誇りを持つのは難しい。 自分の仕事の過程を見えるようにすることで、職人魂は徐々に育っていく。

職人魂を備えた達人ノンプログラマの仕事ぶりは、きっと達人プログラマのそれと見分けがつかないだろう。